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願慶寺の民話 1
下田原民話 三篇(『白峰村村史(下巻)』所収)
1、《チヨズをまわせ》
 むかしむかし、吉野の願慶寺の住職が下田原の報恩講におよばれしました。
 村の人々は
   「今日はゴイゲン様(住職)がござるのでお迎いしに出ねばならぬ。」
と言うので、みんな、男は裃
(かみしも=男の正装)姿、女は晴着を着てお迎えした。
報恩講のお勤行も終り斎
(とき=仏事の食事)が始まった。できるだけの御馳走やお酒を出して歓待しました。
 その中
(うち)に、ゴイゲン様は便所に行ったのはよいが、手洗水の用意ができていなかったので、座に戻り、
   「チヨズをまわせ。」
と言いました。給仕の人々は何のことだか判らない。せつかく
(≒あわてて?)区長様に申しあげると、区長様は、下田原一の学者長九郎を呼んでたずねました。長九郎は、
   「チヨとは長い。ズとは頭だ。誰か長い頭の人はないか。」
と頭の長い人を選り抜いてゴイゲン様の前へ連れて行きました。
   「ゴイゲン様、大変お粗末なものでございますが、唯今、チヨズ(長頭)をまわさせます。」
と言って、その男の頭を、ゴイゲン様の前で幾度も振りまわしました。ゴイゲン様は、おかしな顔をして見ていたという話しです。
2、《蝋燭を食べた話》
 むかしむかし、ゴイゲン様(住職)がお土産に蝋燭を下さいました。村の人は、蝋燭(ロウソク)を知らなかったので、一心に食べるものだと思い、村中に分けてやりました。「ゴイゲン様の下され物だから、みんな少しずつ食べてみよ。きっと寿命が延びるぞ。」
と言って分けて食べたが、あまり美味
(うま)いものではありませんでした。そこへ、蝋燭のともしてあるの(火がついている状態)を一度見たことのある男がやって来て
   「それは食べるものではない。いつか牛首
(今の白峰村白峰)で見た時、先から火が出ていた。腹の中が火になると大変だ。みんな水を飲め。」
と言うた
(言った)ので、みんな驚き、大あわてにあわてて水を沢山飲んだという話です。
3、《ゴイゲン様のする通り》
むかしむかし、ゴイゲン様が初めてこの地に入って来た時のことです。
 ゴイゲン様がござるに
(お越しになるのに)礼式を知らぬと恥しい、みんなゴイゲン様のする通りしようではないかと村の人々が話しあいました。いよいよ報恩講のおよばれ(会食)が始まった。まずゴイゲン様がその家へ入っていきました。みんなも、ぞろぞろとその後についていき、立居振舞(たちいふるまい=することなすこと)を見習いました。ゴイゲン様が下駄をぬいで家に入ると、ゴザを一ぱい敷いてありました。フトはずみに、ゴザの端に足をひっかけて転(ころ)びましたが、直ぐ起きて家の主人に挨拶しました。見ていた村の人々は、これが礼式かと思い、入口で一人一人が、わざとドタリドタリと転ぶまね(=ころぶフリ)をして挨拶しました。
 読経も済んで、斎
(とき=仏事の食事)が始まると、ご馳走の中に、里芋の煮染(にしめ=煮物)を重箱(じゅうばこ=料理を入れるうつわ)に入れて取り廻しで出された時、最初ゴイゲン様が、その芋(いも)を箸(はし)で挟んで取ろうとしたところ、箸がすべってコロコロ畳の上に転がったので、あわてて拾った。見ていた村人は、その通りにわざわざ転がして拾いとったので、さすがのゴイゲン様も可笑しくてたまらなかったという話です。
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